相続人として長男がいますが、知人から借りている土地の賃借権を返すとともに、その土地上の建物を、安く貸してくれてお世話になった知人に譲ろうと思っています。どのように記載すればよいですか?
回答
借地権は、遺言者が亡くなったとき遺言者の相続人に承継されます。
借地上建物とともに借地権を賃貸人である知人に遺贈する旨を記載することで、土地を返還することが可能です。
第〇条 遺言者は、次の建物及び借地権を、土地の賃貸人である○○(生年月日、住所)に遺贈する。
(1)建物
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地
家屋番号 〇〇番
種類 〇〇
構造 ○○
床面積 ○○.○○平方メートル
(2)借地権
(対象土地)
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地番 〇〇番
地目 〇〇
地積 〇〇.〇〇平方メートル
権利の性質 借地権
賃貸期間 平成〇年〇月から令和〇年〇月までの〇年間
賃貸人 〇〇
賃借人 遺言者
第〇条 遺言者は、前条の財産を除き、動産、その他一切の財産を長男に遺贈する。
第〇条 遺言者は、次の者を遺言執行者に指定する。
住 所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
職 業
氏 名
生年月日 昭和〇〇年〇〇月〇〇日生
土地貸借権の遺贈
土地貸借権も、貸借人が亡くなると、相続人に承継される財産です。
上記事例において、知人より相場より安価で借りる代わりに、賃貸借を一代限りで相続させず、賃貸人が亡くなった場合には土地を返還する約束を取り交わしていたとしても、そのような約束は借地権者に不利な内容であるとして、無効と判断される可能性があります。
そのため、上記文例のように、借地権を賃貸人に遺贈する旨の遺言を作成することにより、土地を返還することが可能となります。
また、例えば、相続人でない甥などに建物と借地権を遺贈したい場合は、賃貸人の承諾が必要となります。賃貸人から承諾が得られない場合は、裁判所に許可を求めることが出来るとされています。
遺留分侵害額の請求
上記事例で長男には財産の2分の1が遺留分として認められます。
遺留分権利者(兄弟姉妹以外の相続人)から遺留分侵害額請を請求された場合には、遺留分を侵害している受遺者や受贈者は、これに応じて、遺贈された財産の価額を限度として遺留分侵害額に相当する金銭を負担しなければなりません。
上記事例の場合、遺言作成時には、知人に遺贈する不動産の価値からして、長男の遺留分を侵害する内容になっていないので問題ないと判断することには注意が必要です。
遺留分侵害額の算定時期は、相続開始時であるため、預金等は遺言作成時よりも減少している可能性もあり、株式の評価額も、株の暴落により減少している可能性があります。そのことを想定して遺言書を作成するべきといえます。
長男に遺留分を主張しないよう、理由を付して、遺言書に記載しておくことも、トラブルを防ぐうえで有効となります。
なお、金銭の支払いを請求された受遺者がすぐには金銭を準備できない場合には、裁判所に請求することにより、その債務の全部または一部の支払いにつき相当の期限を与えてもらうことができるとされています。
遺言執行者の指定
遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができるとされています。つまり、財産を遺贈する場合、履行義務者は、一義的には相続人や受遺者となりますが、遺言執行者を指定した場合には遺言執行者のみに限られます。
不動産の遺贈があった場合などは、遺言執行者がいなければ、受遺者の所有権移転登記申請のときに、相続人と受遺者の共同申請が必要となります。
また、遺言において遺贈があった場合であっても、その権利の承継は、登記、登録、通知その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないとされています。不動産や債権等の相続財産がある場合には、相続開始後に対抗要件を備える手続きが必要です。
トラブルが生じる恐れがある場合や、相続財産が複雑でさまざまな手続きを要するときなどは、遺言を確実に実現し、円滑に手続きを進めるためも、遺言執行者に指定しておくことをお勧めいたします。
当事務所の遺言書作成
当事務所は、多くの遺産分割協議案件を扱い、相続が紛争になった時の対応に多くのノウハウを有しており、このような紛争時の多くのノウハウを活かし、紛争を予防するための遺言作成を得意としています。
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