相続人が被相続人の預金を使い込んでいたのですが、返還してもらうことはできますか?
回答
被相続人が高齢となり自ら財産管理が出来なくなった後に、被相続人と同居していた子が被相続人の預金を勝手に使っていたり、不動産を勝手に処分していたりなど、遺産を勝手に使い込むトラブルが度々見受けられます。
これにより、遺産分割の対象財産が本来よりも減ってしまい、勝手に使い込んだ相続人のみが多くの遺産を取得することとなり、公平な遺産分割ができなくなります。
そのため、不当利得返還請求という手続きにより、使い込んだ相続人に対して遺産を返すよう求めることができます。
不当利得返還請求とは
民法において、「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存ずる限度において、これを返還する義務を負う」(民法703条)と規定されています。
つまり、預金を使い込んだ相続人は、法律上の正当な理由もなく利益を得ており、被相続人は使い込んだ相続人に対する不当利得返還請求権を取得することになります。被相続人が亡くなると、不当利得返還請求権も相続人に相続されるため、各相続人が使い込んだ相続人に対し、不当利得返還請求権に基づいて、遺産の返還を求めることができます。
不当利得返還請求の手続き
♦使い込みがあったことの確認
使い込みの事実関係を確認するため、使い込まれた証拠を集める必要があります。
使い込みがあったと主張するための証拠には例えば以下のようなものがあります。
・通帳または銀行の取引履歴、解約請求書類
・生命保険の解約関係書類
・不動産の全部事項証明書
・被相続人の当時の状況がわかる医師の診断書やカルテ
♦訴訟の提起
遺産分割の際には、被相続人の遺産の範囲が確定されている必要があるため、遺産分割調停においては、遺産の使い込みを主張することはできません。
話し合いで解決できない場合は、裁判所に不当利得返還請求の訴訟を提起することとなります。訴訟では、不当利得があり、損害を被ったことを立証する必要があり、証拠集めが重要となります。
不当利得返還請求で取り戻せるのは、相続人の法定相続分までです。
♦時効
不当利得返還請求の時効は、遺産の使い込みがあった時から10年、もしくは、遺産の使い込みがあったことを知ったときから5年のうち、いずれか早い方となります。(2020年4月1日民法改正)
不当利得返還請求の権利が発生したときから10年以上経過した後で、遺産の使い込みが判明した場合は、不当利得返還請求権が消滅してしまうこととなります。しかし、使い込みにより損害が発生したと知ってから3年以内であれば、不法行為に基づく損害賠償請求により遺産を取り戻すことができる場合があります。