財産全部を長男に相続させる代わりに、債務をすべて長男に負担させたいと考えています。相続人は、長女と長男ですが、一切の債務を長男に負担させる遺言をすることは可能ですか?
回答
下記文例のように、相続人の1人に財産の全てを相続させるとともに、その負担として、相続債務の全てを承継させることは可能です。しかし、このような相続債務の指定は、債権者に対抗することは出来ません。
第〇条 遺言者は、長男に遺言者の一切の財産を相続させる。
第〇条 遺言者は、前条に定める相続の負担として、遺言者が相続開始時に負担する一切の債務を弁済しなければならない。
全ての財産の指定と遺留分侵害額の請求
被相続人は、遺言で、法定相続分とは異なる割合で共同相続人の相続分を定めることができ、遺言で相続分が指定されたときは、法定相続分の規定に優先して適用されます。
ただし、遺言による遺留分を侵害する相続分の指定について、遺留分権利者(兄弟姉妹以外の相続人)から遺留分を侵害している受遺者や受贈者、他の相続人に対して遺留分侵害額の請求をされた場合には、これに応じて遺留分侵害額に相当する金銭を負担しなければなりません。
債務の承継の指定
相続は、被相続人の財産に属した一切の財産を承継するものであり、被相続人の債務も原則として相続の対象になります。
相続人は、被相続人の債務を相続分に応じた割合によって承継することとされていますが、上記文例のように、相続債務の相続分を指定し、特定の相続人にのみ債務を負担させる内容の遺言も認められると解されています。
しかし、遺言による相続債務の相続分の指定は、債権者に対して効力は及ばず、各相続人は債権者から法定相続分に従った債務の履行を求められた場合には、これに応じる必要があります。
つまり、債権者と長男、長女の関係においては、長男と長女が法定相続分である2分の1の割合で債務を承継することになります。
この場合に、長女が債権者にいくらかを弁済したときは、求償権が認められ、その弁済額を長男に請求することが出来ます。
なお、債権者の方から指定相続分による債務の承継を認めて、長男に債務全額を請求することは出来るとされています。債権者が共同相続人の1人に対して指定相続分の割合を認めたときは、全ての共同相続人に対してその効力が生ずることになります。
ローン付き不動産の相続
ローン債務が付きの土地建物を、特定の相続人に相続させるとともに、そのローン債務も負担させる内容の遺言も認められます。
ただし、この場合も、債権者と相続人の関係では、債権者の承諾がない限り、債権者からは他の相続人に法定相続分に従った債務の履行を請求することができるとされています。
なお、抵当権の負担の承継については、遺言の有無にかかわらず、特定の相続人が指定された不動産所有権を取得するに伴って、抵当権の負担もその相続人に承継することになります。
当事務所の遺言書作成
当事務所は、多くの遺産分割協議案件を扱い、相続が紛争になった時の対応に多くのノウハウを有しており、このような紛争時の多くのノウハウを活かし、紛争を予防するための遺言作成を得意としています。
将来、相続が紛争化しないよう、しっかりとした予防策を講じたいとお考えの方は、是非当事務所にご相談ください。必ずお力になります。