子どもが3人います。私の事業を継いだ長男に5年前に3000万円を事業資金として贈与しましたが、未だ事業が順調ではないので、この贈与を考慮せずに子供3人に均等に相続させたいと思いますが、可能ですか?

回答

下記文例のように、長男に贈与した額について、特別受益として相続財産に持戻すことを免除し、その贈与を考慮せずに、相続開始時の被相続人の財産について3分の1ずつ均等に相続させるよう定めることが可能です。

第〇条 遺言者は平成〇年〇月頃、事業資金として金3000万円を贈与したが、遺言者の相続に関し、共同相続人の相続分を算定する場合、特別受益としての上記贈与の持戻しを免除する。
第〇条 遺言者が長男に対して贈与した金3000万円は遺言者の事業を継いだ長男が、その事業を継続するために必要であったために贈与したものであり、これをもって長男が相続分を減額されるべきではない。そのため、特別受益としての持ち戻しを免除し、次男、三男と均等に財産を相続させることとする。

 

特別受益の持戻し

共同相続人のうちに、被相続人から贈与を受け、あるいはその生前に婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者がある場合、この贈与によって受けた相続人の利益を特別受益といいます。

特別受益者の相続分は、原則として、特別受益者が受けた特別受益の価格を遺産に持戻したものを相続財産として各相続人の相続分を算出し、この特別受益の価格を相続分から控除した残額とされています。つまり、相続財産の前渡しを受けたものとして、その特別受益者の相続分を減らすことになります

上記文例で、仮に相続開始時の相続財産が6000万円であった場合、長男に贈与した3000万円を加算した9000万円が相続財産となり、長男の法定相続分は3分の1である3000万円となりますが、これを贈与により既に受け取っているため、相続分を受領する権利はないということになります。

特別受益の持戻しの免除

特別受益の持戻しは民法で定められていますが、民法の定めと異なる意思表示をした場合、つまり持戻しを免除した場合は、その意思表示に従って相続することが可能です。

上記文例では、仮に相続開始時の相続財産が6000万円であった場合、長男は3分の1の2000万円の相続がみとめられることになります。

持戻しを免除する意思表示の方式に特別な制限はなく、遺言書に特別受益の持戻し免除の記載がない場合であっても、被相続人から特定の相続人へ生前贈与があったにもかかわらず、この贈与に言及することなく、遺言で相続分を指定したときなどは、特別受益の持戻を免除する趣旨であると判断されることも少なくないと思われます。

しかし、トラブルが予想される場合には、持戻し免除の理由を付して、明確に遺言書において意思表示をすることをお勧めいたします

持戻し免除と遺留分

特別受益の持戻しの免除の意思表示が、相続人の遺留分を侵害しており、遺留分権利者から遺留分侵害額の請求がなされた場合には、その請求に応じなければなりません

遺留分の額の算定にあたって、特別受益の持戻し免除の意思表示があった場合でも、その特別受益の額を相続開始時の被相続人の財産の価格に加算した額を相続財産として遺留分侵害額を算定します。

なお、遺留分算定の際、原則として、相続開始前の10年間にした特別受益のみ被相続人の基礎財産に加算されます。ただし、遺留分権利者が受けた特別受益については、相続開始前の10年間にされたものに限定せず、遺留分侵害額算定の際に控除されます。

つまり、上記事例において、仮に相続開始時の相続財産が1800万円であった場合の場合、次男、三男の遺留分は、長男に贈与した3000万円を加算した4800万円が遺留分を算定するための財産の価格であり、相続財産の2分の1(遺留分は、直系尊属のみが相続人である場合には、被相続人の財産の3分の1、それ以外の場合には被相続人の財産の2分の1に相当する額)の3分の1(相続人が長男、次男、三男である場合の法定相続分)つまり、相続財産の6分の1である800万円が次男と三男の遺留分となります。

ここで、特別受益の持戻しの免除の意思表示があった場合、次男、三男の相続分は1800万円の3分の1である600万円となり、遺留分が200万円ずつ侵害されています。

したがって、遺留分侵害額の請求がなされた場合、長男は、次男、三男に各200万円ずつの金銭債務を負うことになります。

特別受益の持戻しの免除の意思表示を行う場合は、遺留分を侵害しないかどうか確認しておくことをお勧めいたします

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