妻と長男、長女がいますが、子どもたちは生活に不自由ない家庭を持っているため、妻に全ての財産を相続させたいと考えていますがそのような遺言書は有効ですか?
回答
下記の文例のように財産のすべてを特定の相続人(妻)に相続させるよう記載した遺言書も有効であると解釈されていますが、そのような場合、相続を受けた妻に対して長男、長女から遺留分を侵害している額に相当する金銭の支払いを請求される可能性があります。
妻に全財産を相続することについて、遺言書において子どもらを納得させる理由を付しておくことでトラブルを防げる可能性はありますが、トラブルが予想されるような場合には、遺留分に相当する財産だけ子らに相続するよう指定しておくというのも方法です。
第〇条 遺言者は,遺言者の有する下記の財産のほか、一切の財産を、遺言者の妻に相続させる。
(1)土地
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地番 〇〇番
地目 〇〇
地積 〇〇.〇〇平方メートル
(2)建物
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地
家屋番号 〇〇番
種類 〇〇
構造 ○○
床面積 ○○.○○平方メートル
(3)預金
①〇〇銀行〇〇支店普通預金口座
口座番号〇〇
口座名義〇〇○○
②〇〇銀行〇〇支店普通預金口座
口座番号〇〇
口座名義〇〇○○
全ての財産の指定と遺留分侵害額の請求
被相続人は、遺言で、法定相続分とは異なる割合で共同相続人の相続分を定めることができます(民法902条1項)。遺言で相続分が指定されたときは、法定相続分の規定に優先して適用されます。
ただし、遺言による遺留分を侵害する相続分の指定について、遺留分を侵害された相続人が、遺留分を侵害している受遺者や受贈者、他の相続人に対してその遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求した場合には、これに応じて金銭を負担しなければなりません。
もっとも、金銭の支払いを請求された受遺者や受贈者、他の相続人がすぐには金銭を準備できない場合には、裁判所に請求することにより、その債務の全部または一部の支払いにつき相当の期限を与えてもらうことができるとされています。
本事例の場合には、長男、長女それぞれ4分の1が遺留分となり、遺留分について請求が可能となります。
また、仮に、遺言者に子がおらず、兄弟姉妹がいるような場合には、兄弟姉妹には遺留分がないため、遺留分侵害の問題は生じることがありませんので、特定の相続人(妻)に全遺産が移転することになります。
相続財産の具体的な記載
全ての財産を1人の相続人に相続させる場合、相続財産を具体的に特定せずに表示しても、問題はありませんが、このような場合、相続人にすれば、不動産の有無やその内容や所在、銀行の支店、口座番号等が分からないと、遺産の内容の調査や確認が必要となり、不動産の相続登記の手続きや、金融機関への預金の払い戻しや解約などの手続きが煩雑となることもあるので、可能な限り、特に重要な財産については具体的に記載しておくなどの配慮が必要になります。
相続財産を具体的に表示した場合、記載されていない財産が後に発見された場合に誰がそれを相続するのか、トラブルのもとになるため、上記文例のように「ほか、一切の財産を」と記載した方が好ましいといえます。
当事務所の遺言書作成
当事務所は、多くの遺産分割協議案件を扱い、相続が紛争になった時の対応に多くのノウハウを有しており、このような紛争時の多くのノウハウを活かし、紛争を予防するための遺言作成を得意としています。
将来、相続が紛争化しないよう、しっかりとした予防策を講じたいとお考えの方は、是非当事務所にご相談ください。必ずお力になります。